Nintendo Wi/DSに見る設計思想

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 任天堂の次世代据え置きゲーム機「Wii」が発売されてから1週間以上経過しました。このハードは発売2日で、 出荷台数の9割にあたる36万台近くを売り上げ、1ヶ月前に発売されたソニーのPS3に大きくリードしています。
 任天堂といえば、携帯型ゲーム機Nindendo DSの大ヒットにより、 ゲーム機メーカーとして復活を遂げました(それまでも携帯ゲーム機市場では負けたことはありませんでしたが)。

 任天堂はファミコン→SFCと順調にメーカーとしてのネームバリューを高めてきましたが、Nintendo64、 ゲームキューブでソニーのPS1、PS2に大敗し、ゲーム機メーカーとしては終ったと見られていました。 任天堂がゲーム機メーカーとして再び脚光を浴びるようになったのは、Nintendo DSからです。
 今回もWiiのヒットで任天堂の戦略の確かさが再認識できたので、 任天堂のゲーム機を題材にヒット商品の設計思想を研究してみたいと思います。

■両ゲーム機に共通のコンセプト

  • ゲーム離れを起こした人をゲームに呼び戻す
  • これまで、ゲームとは無縁だった人にもゲーム機に触れさせる
  • 新しい遊び方を提案し、ゲーム本来の楽しさを味わってもらう

 これらのコンセプトが、製品にどう活かされたのでしょうか? 上記のコンセプトは、 岩田現社長が就任してから提起されたコンセプトのようです(はっきりとしたソースはありません)。

■Nintendo DSの特徴

  • 2画面化による明確な差別化
  • タッチパネルによるゲームコントロールの改善
  • スリープ機能によって、どこでも簡単にすぐ楽しめる
  • ネットワーク機能とWi-Fiコネクションにより、ゲーム機同士が簡単につなげられる

■Wiiの特徴

  • Wiiリモコンとヌンチャクによる新しいUIの提案
  • ロード時間を意識させない
  • 24時間ネットワークと繋ぐことにより、ニュース等のデータ配信を行える
  • Wiiチャンネルによって、ゲーム以外のコンテンツを配信し、間口を広げる
  • 過去のハードとの100%互換(GCとはハードレベル、ファミコン等はエミュレーション)
  • 低消費電力、省スペース、静音=邪魔者にされないハードを目指した

 岩田社長が就任したのはゲームキューブが発売され、PS2との次世代ゲーム機戦争がはじまったあたりです。この時、 ソニーはDVDプレイヤーとしても使えるPS2を高機能で安価なAV機器のように宣伝してました。
 この時、任天堂はゲーム好きのためのハードとしてGCを発表しました。GCにはDVD再生機能もなく、 AV機器としてGCを捉える人は皆無だったと記憶してます。

 よく、GCはPS2よりもスペックが低いと見られますが、ゲーム機としてのスペックはPS2より上です。実際、バイオハザード4というゲームを見れば分かりますが、 画質、 1画面に登場する敵の数でもGCが上です。それでも売れなかったのは、販売戦略上のミスでしょう(任天堂の)。

 PS2はDVDプレイヤーと組み合わせ、また、PS1のソフトとの互換性を売りに一気にシェアを取りました。 PS1のソフト資産は莫大であり、DVDプレイヤーが普及する前だったこともあり、すぐに勝負がついた感があります。 GCのローンチソフトは「ルイージマンション」でしたが、PS2のローンチはDVDソフト「マトリクス」だったと言ってもいいでしょう。 GCはその後良作が出ましたが、一度ついた戦略上の劣勢は挽回できず、 GC=負けハードという評価は半年程度でついてしまったと記憶しています。
 唄だけが有名になった「ピクミン」も発売して2ヶ月後ぐらいに発売されましたが、ミリオンには届きませんでした。

 負けハードだったGCをまとめると次の通りです。

■ゲームキューブ

  • グラフィックスの美しさはPS2を凌駕
  • 3Dグラフィックスの性能でもPS2を凌駕
  • 高速なローディング
  • AV機能、ネットワーク機能は持たず
  • Nintendo64との上位互換性を持たず

■PS2

  • グラフィックはPS1より向上(でもGC以下)
  • 豊富なPS1のソフト互換性を専用チップで実現
  • DVDプレイヤーとしての機能を持つ
  • ネットワーク機能を持つ

 PS2はよく戦略が練られていたと思います。吉田は結局PS2を買いませんでしたが、 PS2の鮮やかな勝ちっぷりには感心したものです。
 しかし、今回負けハードになってしまったPS3は任天堂がGCで犯した過ちを踏襲した上で、戦略上の大きなミスしてます。

■PS3の犯したミス

  • BDとCELLプロセッサに固執し、高コストな筐体になってしまった
  • HD画質で見られるTV(液晶、プラズマ他)は急速に普及しているが、 まだコモディティ化を果たしていないため請求力が弱い
  • 映像とBDだけをアピールしすぎた
  • PS3を導入する事によるメリットを明確にできなかった
  • 高価な部品の調達が遅れ、十分な出荷台数が確保できなかった
  • 高価で品薄感を強調しすぎ、転売屋を大量に出してしまった(ブランドイメージの大幅低下)
  • 玉数が必要なゲーム機に、高級AV機の理論を適用してしまった

 PS3の枕詞のように出てくるのが、 「驚愕の映像体験」です。確かに実物を見るとすごいグラフィックに感心させられますが、 逆に精度の高すぎるグラフィックがアダになっています。例えば、おもちゃ屋や量販店でデモ用に展示されているPS3用のレースゲームでは、 精度の高いCGが体感できますが、ここまで高精細になってしまうとどうしても実写との比較をされてしまいます。つまり、 背景に使われている岩などの不自然な箇所が妙に気になってしまうのです。
 映像を売りにしているだけに、少なくとも吉田には致命的な欠点に思えてしまいます。

 ソニーはAV機器メーカーであるため、HD画質とBDを売りにしたいのは分かりますが、 はじめに商品ありきの姿勢が今回の敗北を招いてしまったと言えるでしょう。

 一方、Wiiは「新しいゲーム体験」のスローガンを、「Wiiスポーツ」というゲームで実によく体現しています。 Wiiスポーツは見ているだけでも、1度はやってみたい気にさせます(YouTube上に山ほどアップロードされています)。また、 実際にリモコンを手にプレイしてみると、非常に作り込まれたソフトであることを実感できます。
 また、Miiという自分の似顔絵を作って、それをゲームに持ち込める仕組みもユーザーの心をつかんでいると思います。

 任天堂はとにかく普段ゲームに興味を持たない層に関心を持ってもらい、触ってもらうことに心血を注いでいるようです。コンセプト、 設計思想ひとつでここまで明暗が分かれるものなのだと改めて感じさせられました。

 

 

 

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コメント

任天堂の成功は、購買層から子供を放さない事。そして親が買いやすい事これに尽きます。
色々分析してありますが、そんなのは蛇足ですよ。子供層を考えればライバル不在である事が
ハッキリ分かります。
PS1が出た時も当時CDROMを子供に使わせるのに親が躊躇するのは当然ですし、
PS2も当時のDVDの価値と本体価格で子供には触らせたくないですよね。
PS3に至っては更に加速です。
コレが主な理由ですよ。但し、ゲーマーはおもちゃは求めていませんのでこのままでは任天堂は対象外に成りつつあるとも言えますね。

投稿者 七誌 : 2010年01月09日 08:45

ずいぶんと古い記事にコメントありがとうございます。

そのゲーマーですが、ゲーム市場を支えるだけの購買力
を維持しているのでしょうか?
2ちゃんのゲハ等では、コアゲーマー=アニオタと
いう暗黙の了解が出来つつあります。

ゲームというのは、娯楽であり、おもちゃでよいと考えて
います。もちろん、年齢層に適したおもちゃですが。

投稿者 吉田章太郎 : 2010年01月09日 13:17

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